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「もっと頑張らなくてはならなかった」……鈴木肇元奨励会三段の胸中



 アマチュア強豪が集い、プロ棋士や奨励会員も足しげく通う「蒲田将棋クラブ」。鈴木肇(すずき・はじめ)さんは中学2年生のころから、蒲田将棋クラブへ通って腕を磨き、見事奨励会への合格を果たす。慢心からゲームセンターの誘惑に負けて1年間停滞したり、1級では2年半もの間足止めを食ったりと、紆余曲折を経て22歳で三段に上がるも、彼の前には熾烈な三段リーグのサバイバルレースが立ちはだかる。三段リーグ参加者に重くのしかかる年齢制限の壁。26歳の誕生日を迎えた者は、9勝以下の場合その期限りで退会……昨年行われた三段リーグで、鈴木さんはこの掟に泣いた。

元三段となった鈴木さんに、観戦記者の小暮克洋氏が当時の心境を聞いた。

*  *  *

「三段時代はかなり頑張ったが、いま思えばもっと頑張らなくてはいけなかった。7期に及んだ三段リーグは、懸かっているものが大きくてきつかった。年齢を意識しながら、勝負とは別なところで戦わなくてはならないのが自分の中ではつらく、指し手に震えが生じてしまった」と鈴木さんは振り返る。

2013年9月7日の三段リーグ最終日最終局を、鈴木さんは9勝8敗で迎えた。相手の宮本広志三段(27)も9勝8敗で、この一局に敗れたほうが来期のリーグ表から消える。宮本三段とは14回戦終了後に話す機会があり、7勝7敗であることを明かし合ったとき、こうなる予感はあった。最後はベストを尽くしたいと、ただそれだけを念じたという。

「将棋の内容は最初は宮本さんがよかったんですけど、あとから僕が追いついて。ずっと競り合い、三転四転する大熱戦でした。投了を告げたときは、ああ終わったのかという喪失感がこみ上げ、全身から汗が噴き出ました。感想戦と幹事への挨拶を終えて階段を下りると、そこに自分が担当している子どもスクールのお母さんがいて、言葉をかわしたのがまずかったですね。とうとうこらえきれず、涙がとめどなくあふれてしまった。自分を応援してくれていた仲間の棋士たちを横目に将棋会館を飛び出し、電車の中で人目もはばからず泣き続けました。いまでもそのときのことを夢で見たり、ふとした瞬間に切なさが胸をよぎったりすることがあるんですよ」

蒲田将棋クラブを経営する奥村友朗さんはいう。「鈴木肇は性格がいい。こんな厳しい勝負の世界でやっていけるのかと心配していたくらい、とにかくいい子。仕事を頼んでも快くやってくれるし、指導もうまい。技術というより人柄ですね。彼にはこれからも将棋の普及に携わってほしいし、アマ大会にも参加して、ビシバシ元気で将棋を楽しんでほしいと心から思います」――。

「蒲田将棋クラブはもう1軒の家みたいな感じで心が休まり、多くの方々に教えを授かりました。現在15期目のリーグを戦っている(従弟の森村)賢平君には何としても頑張ってほしいです」と、最後に鈴木さんは素直な胸の内を吐露した。




転載元:『NHK将棋講座』2014年2月号






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