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新人に厳しいプロの洗礼 順位戦C級2組



 五つに分かれた順位戦で、C級2組は最下位ランクだ。昨年8月29日に一斉に指された3回戦23局の中に、タイトル戦やA級順位戦に交じって、棋士の推薦で選ぶ06年のベスト対局の10位に入った一戦があった。

 現在、71歳で現役最年長の有吉道夫九段とプロ3年目になった21歳の中村亮介四段の対局。戦況はいったん有吉に傾いたものの中村が粘って混戦になり、最後は有吉のミスに助けられた中村が勝利を収めた。

 深夜に及ぶ272手の激闘ではあった。だが、控室に詰めた棋士たち、インターネット中継で見守ったファンをくぎ付けにしたのは、踏みとどまろうとする者と上に昇ろうとする者との気迫のぶつかり合いだった。

 C級2組はベテランから若手まで様々な棋士が所属する。今年度は45人。成績上位の3人がC級1組へ昇級し、下位の5分の1(今年度は9人)には降級点がつく。降級点を3回取ると、引退が見えるフリークラスに降級する。奨励会を抜けて四段になった新人は、そんな崖(がけ)っぷちでまず、昇級を目指す。

 リーグは1年間で10戦する。同じレベルのプロの戦いで、勝率7割を超すのは容易ではないと言われるが、昇級ラインは8勝か9勝。9勝でも上がれなかった先崎学八段や深浦康市八段の例もあり、1敗が命取りになることが多い。
ここ6年は毎年のように新四段が降級点を取っている。若手の数が増えているのと、ベテラン勢のがんばりが、争いを激しくしている。 C級2組で5年苦しんだという森下卓九段は

「長くいるほど負けられないというプレッシャーが強くなり、泥沼に足を取られるように勝てなくなる」と話す。
新人はここで初めてプロの厳しさを味わうのである。


勢いある若手がつぶし合う 順位戦C級1組

 順位戦C級1組は、上に昇ろうとする若手がひしめき合う場所だ。C級2組から3人昇級してくるがB級2組に上がるのは2人。1人は取り残される計算で、勢いのある実力者が年々たまっていく。
同星ながら順位差で上がれない「頭ハネ」も起きやすく、1期で抜けるのは難しい。この15年で「1期抜け」は
森内俊之名人、藤井猛九段、深浦康市八段の3人だけだ。

2年前の第64期は、当時の森内三冠から竜王位を奪った21歳の渡辺明竜王と、NHK杯戦の決勝で羽生善治四冠を破った24歳の山崎隆之六段が、激しく競り合った。渡辺はこのクラス3期目、山崎は2期目だった。

 ともに5連勝で迎えた6回戦は直接対決。先輩の意地を見せて勝った山崎が勢いを持続し、10戦全勝で昇級を決めた。渡辺は最終戦にも敗れて8勝2敗に終わったが、競争相手の敗戦に助けられ、辛くも昇級をつかんだ。

 「最初は楽に抜けられると思ったんですが甘くなかった。そのうち上がれないんじゃないかと思えてきた」

と、現在B級2組に所属する屋敷伸之九段は話す。三段リーグとC級2組をともに1期で抜け、18歳で棋聖戦を制して史上最年少でタイトル保持者となった逸材も、C級1組で苦労した。
14期在籍したうち、8勝2敗が4回など、毎年好成績を挙げながら及ばなかった。最後は9勝1敗で昇級したが、あと1敗していれば好機を逃していた。

 高勝率の棋士が多いのも、頭角を現す若手の多いC級1組の特徴だ。羽生・朝日選手権者に挑戦中の阿久津主税五段は昨年度7割7分6厘で勝率1位。2位もこのクラス所属の飯島栄治五段だ。同4位の広瀬章人五段と同6位の片上大輔五段がC級2組から今年度、上がってきた。これから星のつぶし合いが始まる。


ベテラン多く「三途の川」クラス 順位戦B級2組

 昨年3月8日、第64期順位戦B級2組の最終10回戦はいつになく注目された。
66歳の内藤國雄九段の昇級がかかっていたからだ。それまで順位戦昇級の最年長記録は、 全クラスを通して、78年に花村元司九段(故人)がB級1組からA級に昇級した60歳。28年ぶりの記録更新がかかっていた。

 9回戦を終え、昇級者2人のうち1人は9連勝の畠山鎮六段(現七段)に決まっていた。もう1人の昇級候補は6勝3敗の内藤、杉本昌隆七段、屋敷伸之九段、森けい二九段の4人。内藤はシード順が一番上だったため、勝てば昇級が決まる「自力」の状態だった。

 相手は田中寅彦九段。終始優勢に進めていたが、詰将棋の名手である内藤が終盤に詰みを見逃すという劇的な幕切れ。結局、逆転負けを喫し、昇級を逃した。昇級したのは当時59歳の森。史上2番目の年長記録だった。

 将棋界ではベテランが順位戦で昇級するのは難しい。B級2組では20~30代の昇級が目立ち、50歳以上は第57期に59歳で昇級した内藤だけだ。
 B級2組には現在、内藤、田中のほかに67歳の加藤一二三九段、59歳の桐山清澄九段、61歳の森、54歳の青野照市九段ら元A級のベテランが数多く在籍している。九段は22人中8人と高段者の比率も高い。

 田中はこのクラスを「三途(さんず)の川。現地に戻るか、霊界に進むか」

と表現する。現在50歳の田中は25歳でB級2組に昇級してから、常にA級かB級1組に所属していた。前期は初めてB級2組に陥落し、23年ぶりにこのクラスで順位戦を指した。 C級1組からの昇級者にとってはここを通過点にできるか、B級1組から落ちた者にとっては、ここで踏ん張れるか。それぞれの立場と思いが交錯している。


超一流のみ駆け抜ける「鬼のすみか」 順位戦B級1組

 04年6月25日、順位戦B級1組の2回戦が一斉に指された。午前10時開始で持ち時間は各6時間。双方時間を使い切ると終局は深夜0時を回ることが多い。この日も全6局のうち5局は午後11時から翌1時台に終わった。
だが残る行方尚史七段(当時)―中川大輔七段戦は異例の展開を見せた。

 中川が攻め、行方が受けに回った終盤は、互いの王将が敵陣に入る相入玉(あいにゅうぎょく)模様になり、午前1時35分に241手で持将棋(じしょうぎ)(引き分け)が成立した。30分後に指し直しとなったが、これも夜が明けた同4時58分、122手で互いに同じ手順を繰り返す千日手(せんにちて)に。再び30分後に指し直し、結局勝負がついたのは朝の9時15分(111手で行方勝ち)。丸一日かけた激闘だった。

 B級1組リーグは同2組以下と違い総当たり制で、成績下位の2人は即降級となる。 中川は2期目、行方は1期目。A級を狙う以上に降級を避けるためには、リーグ序盤の星一つであっても落とすことは出来ない。 このクラスは、ひと昔前は「鬼のすみか」と呼ばれた。鬼才が多く巣くっているという意味だ。

 順位戦を長く観戦してきた河口俊彦七段は

「昔は福崎文吾九段や森けい二九段ら、ひと癖もふた癖もある強者(つわもの)がそろっていた。個性派はつぼにはまれば誰でも負かすが、ムラもある。だからA級には残留しにくい。そんな棋士がごろごろしていた」と話す。

最近はメンバーが若返って、昔のイメージはなくなったというが、A級経験者は今期13人中7人もいる。やはりこの中では生き残っていくのは難しい。

 一方で青野照市九段は「超一流は1期で抜ける」と話す。羽生善治三冠や森内俊之名人、佐藤康光二冠ら、現A級11人(名人含む)のうち8人が1期でA級に上がっている。


棋界の頂点をねらえ 順位戦A級見どころ

 将棋の第66期名人戦・順位戦が6月1日、B級1組1回戦を皮切りに開幕する。
現在、森内俊之名人に郷田真隆九段が挑戦している第65期名人戦七番勝負が進行中だが、 次の名人挑戦権を争うA級も、4日の三浦弘行八段―行方尚史八段戦で始まる。棋士の格をかけた戦いで今年はどんなドラマが見られるのか。今期の見どころを紹介する。

 名人が相撲界での横綱だとすれば、順位戦A級所属の棋士は三役といったところ。実力者同士のぶつかり合いは、ファンの注目も高く、タイトル戦に勝るとも劣らない内容の棋譜を生み出している。全棋士にとって「あこがれの舞台」だ。

 第66期A級も豪華メンバーがそろった。シード順1位には第65期名人戦の森内名人―郷田九段戦の敗者。2位から5位までは、谷川浩司九段、羽生善治三冠、佐藤康光二冠、丸山忠久九段と名人経験者が占める。

6位以下は、藤井猛九段、久保利明八段、三浦弘行八段、木村一基八段、行方尚史八段の順だ。 6位以下が挑戦者になったのは、第54期の森内俊之名人(初参加9位)までさかのぼり、ここ数年はずっと5位以内から出ている。今期も上位陣が本命であることは間違いなく、最終9回戦の谷川―羽生戦が大勝負となる可能性は大きい。

 一方、B級1組への降級者2人は、ここ3年は7位から9位までの中から出ている。 前期は深浦康市八段が4勝5敗の成績を挙げながらも、6人が同星となったことで、シード順9位の深浦八段が降級した。同3位だった佐藤棋聖も4勝5敗だったが、今期は4位につけており、シード順位の重みが顕著に表れたリーグだった。新参加の木村、行方両八段は厳しい戦いが予想される。

 ◆B級1組以下 渡辺竜王「ぶっちぎり」なるか

 将棋界には「天才の系譜」がある。名人に手が届くような棋士は、少年のころから「名人候補」と衆目が一致し、期待通りにトップに駆け上がる。その系譜を明らかに引き継いでいるのが、竜王3連覇で超一流棋士の地歩を固めた渡辺明(23)だ。今期から参加するB級1組(13人)を当然のように1期で抜けられるかどうか。渡辺竜王にとって真価を問われると同時に、今後の将棋界の動向も占う戦いとなる。

 名人・A級在位連続26年の谷川浩司九段は

「A級でいい成績を残すには、最終局にいく前に1局余して昇級を決めるぐらいでないといけない」と話す。

超一流ならではの見方で、渡辺クラスに求められるハードルは高い。
 B級1組には深浦八段、阿部隆八段、鈴木大介八段ら7人の元A級がひしめき、いずれもA級にいても何の不思議もない猛者たちだ。その実力者たちがA級に返り咲くことも多く、新参加の渡辺が「ぶっちぎり」の成績を残せるか、それとも先輩が意地を見せるのかが注目だ。

 ほかのクラスでは、朝日オープン将棋選手権の五番勝負に登場したB級2組(22人)の山崎隆之七段(26)、C級1組(31人、うち休場1人)の阿久津主税五段(24)の二人が昇級できるかが見どころのひとつだ。若手の精鋭がつぶし合うC級2組(45人)では、昨年度新人王の糸谷哲郎四段(18)ら10代棋士の活躍に注目。



2007/5

転載元:朝日新聞夕刊





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