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羽生善治VS渡辺明 
将棋界「新ライバル戦記」⑤



執念のラバーマッチで復位

 王将を奪取し再び二冠に返り咲いた渡辺竜王は、棋王の座にも王手をかけている。取れば羽生三冠に並ぶことになり、2強の実力と名声はますます輝きを増していくのだ。そんなライバルの歴史に残る「17時間の激闘」の舞台裏をクローズアップする。

 竜王を9連覇している渡辺明竜王(28)が一度だけタイトル防衛に失敗したことがある。昨年の2冠目の王座防衛戦だ。挑戦者はその前年、王座から引きずり下ろした羽生善治(42)だった。

 王座は羽生にとって特別なタイトル。92年に初戴冠して以来、19連覇。しかも、6年連続3連勝で防衛中だった。渡辺は前人未到、節目の20連覇を阻止していただけに、この対戦は注目された。将棋関係者が言う。

「王座は挑戦者決定リーグ戦がないタイトル。5番勝負の舞台に立つまでは一戦も負けられない。勝ち上がった羽生には執念さえ感じられました」

 王座は渡辺が03年に初挑戦したタイトルで、その時は奪取に王手をかけながら敗れている。2人にとってはまさに因縁のラバーマッチだったのだ。

 ハイライトは12年10月3日、羽生の2勝1敗で迎えた第4局だった。敗色濃厚だった羽生が妙手を繰り出す。歩の頭に銀を“ただ捨て”した、122手目の△6六銀がそれだ。

 この手は先手からの▲8三飛△同金▲同銀成△同玉▲8二飛△7四玉▲6六桂以下の詰みを消しているだけではない。△8八角成▲同玉△7七銀成以下、詰めろ逃れの詰めろになっている。まさに「羽生マジック」。“ただ捨て”という発想はそう簡単にできるものではなく、棋士がこぞって絶賛した一手だった。渡辺はこの銀を▲同歩と払ったあと、△8九金から千日手になる。観戦記者が言う。

「劣勢の羽生が指し直しへと誘導し、渡辺もしかたなく応じるしかない局面となったのです。千日手になった瞬間、渡辺の表情は曇ったといいます」

 先後入れ代わっての指し直し局は、息を吹き返した羽生が巧みな指し回しでリードを保ち、渡辺が投了した。3勝1敗で羽生が復位。まさに羽生にとっての名局だったと言える。

 戦いが終わったのは、日付が変わった翌日の午前2時2分。午前9時に始まってから、実に17時間が経過していた。

 渡辺は3月7日、挑戦中だった王将戦7番勝負で佐藤康光前王将(43)を4勝1敗で下して二冠に返り咲き、10日には郷田真隆棋王(42)との棋王戦5番勝負第3局を勝って2勝1敗。24日に行われる第4局を勝てば、羽生と並ぶ三冠になる。

 佐藤とは4度目のタイトル戦だった。竜王戦では06年(4勝3敗)、07年(4勝2敗)と2回挑戦を退け、07年の棋聖戦では奪取に失敗(1勝3敗)していた。対戦成績は渡辺の17勝19敗と、まだ負け越している。前出・将棋関係者によれば、

「渡辺が5連敗した直後に4連勝したことがあるように、勝ち負けが偏るのがこの2人の戦い。今回は際どい勝負が多かった。渡辺にとって羽生と佐藤はまさに前門の虎、後門の狼です」

トップクラスは月給80万円

羽生と渡辺のツートップは必然的に収入面でも群を抜いている。12年の獲得賞金・対局料ランキングは羽生1位(9175万円)、渡辺2位(7197万円)。3位の森内俊之名人(42)以下を大きく引き離しているが、高収入の目安となる1000万円を超える棋士は例年20人前後である。竜王の優勝賞金4200万円、朝日杯オープンの同1000万円が公表されている以外、賞金や対局料は原則非公表だが、かつて棋士が給料に相当する月額手当を明かしたことがある。

 初代竜王の島朗九段(50)が、その著書「将棋界が分かる本」で94年当時、月額手当として名人106万円を筆頭に、A級約65万円、C2で約16万円と書いている。この月額手当は順位戦で一定の成績を残していれば保証され、先の対局料・獲得賞金とはまた別に支払われるものだ。渡辺が極楽とんぼ・加藤浩次とのBS番組の対談で、プロ入りした当時、C2在籍時の収入を聞かれて「対局料を入れて300万円から400万円の間」と答えている。将棋界ウオッチャーが言う。

「ゴルフのように1試合ごとにリセットされないのが将棋。タイトル戦にしても一般棋戦にしても、予選で負けるとその棋戦には翌年まで出られなくなる。1年通して対局がある順位戦だけになりかねないのです」

 そうなれば収入は月額手当だけになるが、

「A級から落ちなければ給料だけで食えると言われます。A級は企業で言えば部長クラスで、羽生、渡辺は恐らく70万~80万円」(前出・将棋界ウオッチャー)

 この月額手当だけで年間約1000万円になるわけだが、プロ棋士であれば多彩な副収入の道もある。将棋道場などでのアマチュアの指導料、将棋イベントの出演料、戦術本を執筆しての印税、講演料、雑誌のインタビュー取材などだ。中堅棋士が明かす。

「会社の将棋サークルで指導すれば1回3万円前後。タイトル戦とは縁のない下位の棋士でも、回数をこなせばかなりの収入になる」

 将棋連盟の規定では、稽古料(指導料)は四段で1回だけなら4万2000円で、七段は10万5000円。八段以上とタイトル保持者には金額は明示されていないが、指導料を含め棋士に払う謝礼の大半は「相場」で決まる。人気があるほど機会は多く高額になるわけだが、実際の額は規定より低いという。

「とはいえ、羽生や渡辺のようなトップクラスは対局で忙しく、副業をやる暇がほとんどないのが現実。講演やインタビューの依頼はほぼ羽生の一本かぶり状態ですが、詰め将棋作成などと同様、代役可能な仕事であれば他の棋士に回してやるのはよくあることです」(前出・観戦記者)

1日24レースの馬券買い

対局の日は終日、盤の前にいる、座業であるのが棋士。ゴルフを趣味にあげる棋士がいるのは、体力維持も兼ねているからだ。

 渡辺もスポーツジムでウエートトレーニングをしたり、長距離走をしたりしているが、趣味は何といっても競馬。競馬場に行って馬券を買い、ゴール前で叫んでいるシーンをブログでおもしろおかしく実況を交え書いているほど。WIN5は発売当初から買い続け、GIフェブラリーSがあった2月17日には54万9120円を的中させている。その日のブログを見ると、

〈今まで1万円台の低配当しか当たったことがなかったのですが、今日は当たりました〉

〈勝因としては小倉大賞典のヒットザターゲットを拾えたことでしょうか。この馬はラチを頼るので内枠なら買えるんですよね〉  ヒットザターゲットは6番人気だった。本誌競馬担当記者は、

「それまで5走のうち4走が2桁着順。競馬を知らないと買えない馬です」

 と評するのだ。  1年間に手を出すレースは1300を超え、1日24レースは買う渡辺。回収率は90%前後というから、競馬評論家でも通用する成績である。

 一方の羽生の趣味はチェス。対局を調整して本場ヨーロッパで武者修行する姿がテレビ放映されたほど、のめり込んでいる。もちろん日本の第一人者で、昨年10月にフランス王者と対戦した時は引き分けに持ち込み、

「チェス一本にしぼっていれば、世界も狙えた」とたたえられたほど。

 さて、将棋界のこのツートップの戦いはどうなるのか。観戦記者の大矢順正氏が予測する。

「渡辺が王将戦で戦った佐藤も棋王戦の郷田も森内も皆、羽生世代。渡辺は孤軍奮闘しているわけで、同世代や若手から渡辺に続く棋士が出てくればもっと戦いやすくなるのではないか」

 引退棋士の桐谷広人七段も言う。

「2人は人間的にも優れている。競い合ってくれるのは将棋界には望ましいこと。かつての大山(康晴)さんと升田(幸三)さんみたいに戦ってくれると、さらに盛り上がりますね」

 渡辺が棋王を取り、羽生が名人を奪還すれば七冠全てを2人で分け合うことになる。二強時代の激闘は、いよいよ本番を迎えるのだ。



2013/3/26, 27,28

転載元:アサヒ芸+





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