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羽生善治VS渡辺明 
将棋界「新ライバル戦記」③



3連敗はプライドが許さない

 勝負の世界では、トップの座に君臨する者は追われる立場にある。そして、それがいつしか逆転現象に及ぶことも──。業界屈指のスター棋士・羽生に肉薄する若き天才・渡辺が2冠目を奪取し、獲得賞金でも猛然と追い上げる。いよいよ交代劇が現実のものとなりつつあるのだ。

 先頃、日本将棋連盟が発表した2012年の獲得賞金・対局料ランキングによれば、羽生善治(42)が9175万円で、15年連続19度目となる首位の座を獲得した。それに次ぐのは渡辺明(28)の7197万円。3位の森内俊之が5317万円であることを見ても、いかに2人が突出しているかがわかる。だが、その3年前の09年は羽生の1億1278万円に対し、渡辺が5605万円。ダブルスコアだったのが、今や渡辺が羽生の独走阻止を射程圏内に捉えているのだ。

 さて、先の3月1日、「将棋界のいちばん長い日」の別称があるA級順位戦の最終9回戦が、東京・千駄ヶ谷の将棋会館で5局同時に行われた。将棋の世界はA級からC2まで5つのクラスがあり、A級1位の棋士が名人への挑戦権を得ることになる。勝ち抜きさえすれば、アマチュア棋士でも挑戦できる竜王とは大きな違いがあるのだ。

 今年注目されたのは、羽生の名人挑戦と将棋連盟・谷川浩司会長に降級の可能性があることだった。だが終わってみれば、羽生はイの一番に橋本祟載に勝ち、谷川も残留を決めた。

 名人挑戦の目はなかったものの、すでに残留を決めていた渡辺にとっては、消化試合に等しい1局。直前の2月23日、郷田真隆棋王に挑戦している第38期棋王戦5番勝負では、第2局を勝って1勝1敗としていたが、この日は同じ相手に敗れている。とはいえ、

「気分転換がうまく、負けても尾を引かないのが渡辺。リフレッシュして3月10日の第3局に臨んでいます」(観戦記者)

 渡辺はさらに、この棋王戦の前(3月6日、7日)には王将戦に挑んでいる。佐藤康光王将に3勝1敗と王手をかけての第5局突入で、みごと2冠目を奪取した。

 一方の羽生は、4月9日から森内俊之名人に挑戦する7番勝負がスタートするが、森内にはここ2年続けて敗れている。将棋関係者はこう話す。

「これまで名人戦では7回戦い、トータルでは羽生が22勝19敗と勝ち越しているのに、名人位は森内4度、羽生3度。3連敗は羽生のプライドが許すはずはなく、注目のシリーズになるのは間違いない」

 12年度の前半は羽生が名人、棋聖、王位、渡辺から奪冠した王座と4つのタイトル戦に登場し、後半は渡辺が竜王を9連覇したのをはじめ、王将、棋王を戦っている。両者と指した経験があり、07年に引退した桐谷広人七段は、彼らの活躍を高く評価している。

「王座戦での戦いを含め、2人のどちらかが7つのタイトル戦全てに登場している。羽生は当然ですが、渡辺が本領を発揮する時期がいよいよ到来したと言ってもいいでしょう」

羽生を負かすことに慣れた

2人の最新対局は2月9日、朝日杯オープン戦準決勝。公開対局の一戦で、開始時間は午前10時半だったが、対局者が席に着く前に二重三重の人垣ができるほど、会場の有楽町朝日ホールには多くのファンが詰めかけていた。ユーモアを交えた巧みな話術が売りの藤井猛九段が大盤解説役で、「この将棋は見るだけ(でいい)。すごい、すごいと感動する」と戦前から太鼓判を押したように、この日の大一番となった。

 先手は羽生。渡辺とは今年の10戦目となる対局で、2月1日にあったA級順位戦(羽生の勝ち)同様、横歩取りの将棋になるが、

「形勢が渡辺に傾いたのは、羽生の49手目▲3五歩と早かった。△4四角の飛車と香車の両取りを受けているが、それでも△5五角で香車の両取りが残るからです」(前出・観戦記者)

 局後の感想戦で羽生は、この手以降は「ダメですね」「はっきり悪くしました」「収拾がつかない気がします」と敗勢を認めている。渡辺が「少しやれるかなと思った」と控えめだったのは、羽生のつらい胸の内を思いやってのこと。感想戦で勝者が脇役に徹するのは定石でもあるからだ。

 ▲3五歩から十数手進んだ頃、藤井が聞き手の女流棋士・上田初美に「(形勢は)どうですか」と問いかけている。「後手がよさそうに見えますが‥‥」と上田が言葉を濁すと、藤井は「では私が言いましょう。後手が技ありの局面です」。

 98手で羽生が投了。

「序盤に伏線があった。渡辺が羽生の緩手を誘う巧妙な指し回しの“罠”を仕掛けていたのです。羽生は知らず知らずのうちにハマッていった。渡辺の完勝劇でした」(前出・観戦記者)

 渡辺は同じ日に行われた決勝戦で若手の菅井竜也に勝ち、優勝賞金1000万円を手にしている。渡辺のブログにはこうあった。

〈朝日杯は2連勝で初優勝。タイトル数、棋戦優勝回数にはこだわりたいので、数字を積み重ねるのは嬉しいですね〉

 ブログではタイトル戦でなくても勝負どころの指し手を図入りで解説することが珍しくないのに、朝日杯について書かれていたのはたったこれだけ。

「その後、2つのタイトル戦が控えていることもあっただろうが、あっさり振り返るだけだったのは、勝つことに、そして羽生を負かすことに慣れているからとも取れる」(中堅棋士)

 あの羽生を負かすことに慣れている──。事実、それを示すデータがあった。

 まず、羽生の棋士生活27年はそのまま記録の歴史でもある。通算タイトル獲得数83期と24年連続タイトル保持は歴代1位。竜王を除く六冠の永世称号と96年の全七冠制覇は将棋界初であり、4連覇中の一般棋戦NHK杯(通算10回優勝)の名誉選手権者でもあるのだ。

 棋士生活13年の渡辺は、03年に獲得した竜王を9連覇中。09年、21歳9カ月での九段昇段は最年少記録で、通算タイトル獲得数10期は10位につけている。



2014/3/19,21

転載元:アサヒ芸+





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