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将棋をビジネスとして考える



 衰退か? 盛り返すか? 頭脳の格闘技「将棋」をビジネスとして考える

将棋はどこまで「フリー」がいいのか

 マーケティングの一般論として考えると、デジタルで表現されてネットに乗り「フリー(無料)」になったコンテンツの収入減少をカバーするには、ないしは「フリー」で顧客を集めて収入を増やすには、「フリーの顧客」の中でもとりわけ熱心な、「私はお金を払ってもいい」という顧客から収入を得る方法を考えなければならない(近年、こうした収入を「フリー」と「プレミアム」を混ぜて「フリーミアム」と呼ぶ)。

将棋界は、プロの対局という主力コンテンツから十分なフリーミアムを得る方法を、未だに開発していない。ネットビジネスにたとえると、少数の大手法人顧客(新聞社など)数社の棋戦契約料に頼った、「広告モデル」に近いビジネスである。広告主の行動や盛衰の影響を大きく受ける、脆弱なビジネス構造と言える。

 たとえば、音楽のデジタル配信が増えて、プロの音楽アーティストは、CDの売り上げの減少に直面している。一方、彼らは、お金と時間をかけてコンサートに来るような熱心なファンを対象に、コンサート・チケットの値段を上げる、コンサートの際にグッズの販売などで副収入を得る、ダイレクトにチケットを販売してチケット販売の利益率を上げる(顧客データベースの活用を含む)……といったビジネス上の工夫をして、収入を得ている。「近年、コンサートのチケットが高い」と感じている読者は多いのではないか。

一将棋ファンのサンプルとして、筆者自身について考えてみよう。筆者は学生時代に将棋部に在籍し、現在の棋力はアマ四段程度だ。プロの将棋は、主なタイトル戦や順位戦(名人戦の予選であると同時に、棋士の格付けに大きく影響する棋戦)の多くをネットで観戦している。敢えて自分で言うが、将棋連盟としては、「有望な見込み客」だ。

しかし、筆者が将棋に定期的に支払っているお金は、直接的には、順位戦をネット中継で観戦するための月間500円(@niftyのサービスによる)と、雑誌「将棋世界」の毎月の購読料750円程度にすぎない。年間で、たった1万5000千円だ。これを、顧客である筆者の満足度の向上を伴いながら、できれば10倍、せめて5倍くらいまで高めることができないか。

ちなみに、別の趣味である競馬では、馬券収支の差し引きで1ヵ月に2万円くらい負けることを「普通だ」と許容している(この費用の、心の会計上の分類は「教養娯楽費」だ)。ほどよい時間で十分楽しめるなら、筆者は、将棋にもこれくらい払ってもいいと思っている(競馬もやめるつもりはないが)。

ちなみに、筆者の息子は1年前から、将棋連盟で開催されている子供将棋スクールに通うようになり、月間6000円の月謝(年間7万2000円)を払うようになったが、これは、たまたま息子が将棋に興味を持ち、彼の母親が連盟の子供将棋スクールを見つけたからで、将棋連盟が筆者から稼いでいるものではない。



健全だが、消極的とも言える経営

 ところで将棋教室は、将棋の家元(的)ビジネスを営む将棋連盟にとって重要な収入源だが、一つだけ改善を望む点を指摘すると、現在、千駄ヶ谷にある将棋連盟の本部の建物(将棋会館)は、キャパシティが不足している。教室を開く部屋の数も足りないと思うし、子供が教室にいる間に親が待つ場所が極めて不自由だ。

筆者は、娘が日本棋院の囲碁教室に通う際に同行したことがあるが、子供のための教室の数とスペース、親が待てる待合室などの設備は、東日本の囲碁の総本山である日本棋院の方が圧倒的に良い。

熱心な将棋ファンからの収入を「深掘り」していくことが重要だとする仮説に従うなら、将棋会館は、そのための場としても重要だ。

将棋連盟は、もっと大きな本部を作るか、移転する必要があるのではないだろうか。熱心な将棋ファンに対して、今後さまざまな「プレミアム感」のあるサービスを提供するにも、もう少し大きくて綺麗な「箱」が要る。

一方で、年間売上高が二十数億円の一中小企業であるという将棋連盟の経済実態を考えると、不動産への投資には慎重でなければならないという事情はある。しかし、将棋連盟のバランスシートを見ると、総資産約21億円に対して、流動負債は3億2600万円で、その大半が未払い金と前受金であり、固定負債に至っては、退職給付引当金が1億3500万円あるだけで、要は大きな借り入れがない。これは、健全経営ともいえるが、企業としては、ずいぶん消極的な経営である。

続く。

2012/10/17

転載元:将棋をビジネスとして考える





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