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将棋をビジネスとして考える



 衰退か? 盛り返すか? 頭脳の格闘技「将棋」をビジネスとして考える

羽生善治氏の前人未踏の偉業



 将棋棋士の羽生善治氏が今年7月、第83期「棋聖戦」で防衛を果たし、タイトル獲得回数が81回となって、歴代単独トップに躍り出た。かつてよりもタイトル戦の数が増えているとはいえ、69歳まで現役の第一線で戦い続けた大山康晴15世名人の記録を41歳で破ったのだから、文句なしの偉業だ(大山名人が最後の、つまり80回目のタイトルを獲得したのは59歳の時)。そして、羽生氏はその後もタイトル戦での勝利を積み重ねている。

アマチュアの一将棋ファンに過ぎない筆者が両者の記録を内容的に評価することはできないが、私見では、羽生氏の時代の方が大山名人の時代よりも、ライバルの数が多く、かつ強かったのではないかという印象を持っている。世界的に見ても、「頭脳の格闘技」のプレーヤーとして、突出した実績だ。なお、羽生氏は、趣味のチェスにおいても日本のトッププレーヤーである。

周知のように羽生氏は、1996年に7大タイトルを全て制覇する前人未踏の「七冠王」を達成し、広く世間に向けて将棋ブームを巻き起こした。この時期に、将棋界はファンの裾野を拡げ、ビジネスとしても潤ったように見えた。

しかし、近年、プロを巡る将棋ビジネス、主として日本将棋連盟のビジネスは、必ずしも順調に伸びていないように見える。



有利な要素はあるのに「成長の止まった中小企業」状態



 日本将棋連盟のホームページを見ると、平成23年度(3月末決算)の経常収入実績は約27億900万円だが、翌年度の収支予算書の同項目は約26億6700万円と減少している。本年度の初めの時点で、将棋連盟の正会員名簿には220名の棋士が名前を連ねている。端的に言って、成長の止まった中小企業に見える。

将棋という全国的にポピュラーなゲームをコンテンツとして擁し、その構成員の一人一人が天才、あるいは少なくとも元天才レベルの頭脳のアスリートであることを考えると、「現在の収入は、もう少し多くてもいいのではないか」という思いを禁じ得ない。

ちなみに、東日本を主なテリトリーとする囲碁の日本棋院の年間経常収入はざっと38億円だ(昨年度)。囲碁を趣味とする人には資産家や高額所得者が多い、というファン層の傾向の違いがあるとしても、「ルールを知っていて、自分でもゲームに参加できる」という人口は将棋の方が多いはずだ。なのに、将棋連盟は日本棋院に収入で差をつけられている。

どうやら、将棋連盟はビジネスが下手だ。

棋士の収入は、対局料と賞金、及び将棋連盟からの給与所得だけではなく、棋士が個人的に行う稽古、道場、スクール、著述業収入などを含むので、「プロ将棋経済圏」の総体は連盟の収入よりも大きなものになる。だが、それらを考えても、もっと成長の余地はないものか。

商品として「将棋」というゲームを評価すると、①知名度は抜群でルールも広く普及しており、②アマチュアのプレーヤーに加えて、テレビ棋戦やネット中継などの“観戦ファン”も多く、③今後の日本社会が高齢化するとしても、高齢者に対する親和性が高く、④PCやゲーム機、スマートフォンなどでプレーできるゲームでもある、といった有利な要素を持っている。

需要の掘り起こしが、もっと期待できるのではないか。



「新聞の衰退」「コンピューターの進化」「スターの高齢化」という問題

 他方、厳しい要素もある。

プロの将棋の主なスポンサーは、新聞社や放送局のようなメディアだ。NHKを除くと、彼らは、将棋による読者や視聴者の獲得と広告効果に期待して、タイトル戦の契約料という形で(大きなタイトル戦だと年間数億円の)お金を払ってくれる。

しかし、新聞の実質購読数は落ち込んでおり、同時に、広告獲得でも苦戦を強いられている。今後、タイトル戦が打ち切りになったり、契約額の引き下げ交渉をスポンサー側から持ちかけられたり、といった逆風が生じる公算は小さくない。

また、コンピューターのハード、ソフト両面の発達により、プロ棋士がコンピューターに勝てなくなる時代が目前に迫っている。

先般、現役の棋士ではないとはいえ、往年の一流棋士だった米長邦雄・日本将棋連盟会長が、コンピューター将棋ソフト「ボンクラーズ」と対局して敗北した。走るのが自動車よりも遅いからといって、陸上競技のスターの価値が落ちるわけではないが、コンテンツとしてのプロの将棋対局のブランド価値をどう守るかということは、考えなければならない課題の一つだ。

加えて、スター棋士たちの「年齢問題」がある。最大のスターである羽生善治氏、あるいは羽生氏の同世代のライバルたちを含む通称「羽生世代」のスター棋士たちが、加齢を背景に勝率を落とすような時期にさしかかった時に、コンテンツとしてのプロの将棋対局の価値が保たれるか否かについては、少なからぬリスクがある。紙メディアの雑誌の多くが、読者の平均年齢の高齢化と共に部数を減らしている現象を見ると、羽生氏の「七冠フィーバー」の頃のファンが、徐々に将棋から離れていく可能性が大いにある。

広く一般向けの人気面でも将棋界を牽引できるような若手スターは、まだ十分に育っているとは言い難い。

また、ネットの発達がもたらす影響についても、不透明な要素がある。現在、コアな将棋ファンの多くは、タイトル戦などプロの将棋の大きな対局を、ネット中継で無料、ないし無料に近いコストで観戦している。

プロの将棋のリアルタイムでのネット観戦は、刺激的で魅力的なコンテンツだが、例えば将棋ファンの多くが既存の新聞の購読を止めて、プロ対局のネット観戦にシフトしたら、どんな状況が訪れるだろうか。将棋連盟は現在、その場合の対策となる有効なビジネスモデルを持っていないのではないか。

続く。



2012/10/17

転載元:将棋をビジネスとして考える





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